生徒会から渡された資料をを持って廊下を歩く。
まったく…引退した奴に任せないで欲しい…
俺だって暇な訳ではないんだ。
うちの学校は進学校だから殆んどが今センター試験の勉強をしている。
俺だって進学が決まっていてもやることはいっぱいあるんだ。
本当に勘弁して欲しい…
そんな事を考えながら歩いていると声を掛けられた
「?」
誰かと思って視線巡らせると坂口が斜め前から歩いてきた
「坂口」
「何してんだ?」
「そっちこそ…何で本校舎に」
「ちょっとな。…なんだよそれ」
「生徒会の資料」
「うわ…マジありえねぇし」
「俺もそう思う」
「は?」
「一応引退してるんだがな」
「良いように使われてんじゃん」
「本当だよ…」
廊下での立ち話。
登校してくる生徒が俺達を…いや正確には坂口を睨むようにして通り過ぎていく。
本当に黒銀の生徒は分かりやすいと心から思う
確かに見るからに俺と目の前の男、坂口とは色々と違い過ぎる。
一緒に居ること事態彼らには良い様に思われていないしな
俺もある意味目立ち過ぎているのかもしれない・・
「お前、第一開けないとまた隼人に言われるぜ?」
坂口が自分の襟元をトントンと指で指して俺に言った
第一ボタンを開けていないとD組の奴ら、特に隼人がめざとく見つけ勝手に開ける。
別に藤波や浜口だって第一閉めてるじゃないかとこの前聞いたら、
俺は別だそうだ…
それは俺がB級漫画にでも出てきそうな堅物に見えるかららしい。
理解出来ない。
それは俺の眼鏡が悪いのか?
この眼鏡が悪いとあいつら遠回しに言いたいのか?
本当に理解不能だ。
だったらコンタクトにでもこの際しようかと本気で考えたくもなる
「お、おい」
「なんだ」
「それ」
それと言われて顔を上げると坂口が目を瞠て俺の手元を見ている
手元を見ると先程見ていたプリント
…何故皺に
「お前が握り締めたんだよ…」
俺が…あぁ無意識は恐ろしい物だな坂口・・
「お前おかしいぞ(こいつこんなキャラだったか?)」
おかしい?何が言いたいのだろうか坂口は…
それにしても坂口はエスパーだったのか知らなかったな
「い、いや全部口に出してるからな」
「は?」
「全部聞こえてるから」
坂口は少し青ざめた表情で俺の肩を叩いた。
俺は知らず知らずに口に出していたらしい…
何という失敗をした…
無意識に寄せてしまった眉間の皺に指先をあてる
「まぁいいけどよ。今日も来るんだろう」
「朝の内にこれが片付いたらな…」
「分かった。隼人達にも言っとく」
「ありがとう」
「じゃぁな。」
「ああ」
坂口が俺の頭をポンッと撫で、お互いに微笑んで
坂口は軽く手を上げて去っていった
俺は相手の背を目線で追い掛けると、向きを直して坂口とは別の方向に歩き出した
向かった先は見慣れた生徒会室
勿論鍵は掛っている
生徒会室は会長・副会長と顧問とで管理している。
その鍵を俺はまだ担当の先生から無理矢理持たされたままになっている
きっと俺はまだ生徒会から重要視されてるようだ…
仕事をしてくれと・・遠まわしの頼み
まぁ自惚れかもしれないがな…
これは本当は嬉しい事なのかもしれない。
しかし今の俺にとっては重たい荷物にしか思えないのは確かだ。
いったい俺に何を求めているのか分からないが、
俺はまだ、いくら拒んで反抗しても黒銀の狗には変わりないのだろう
部屋の中は異様に寒かった。
白く濁った息が出るくらいに
俺は身震いをしつつ、現会長の席に資料を置いた
今まで俺が座っていた所。
入学したてから入れられた生徒会。
ふと、入学で思う3Dの入学したての頃…
黒銀が進学校としての道を歩み出した時の事だ
各自まだバラバラだとは言え、きっと今とさほど変わらないのだろう…
そう思ってみると口の端が自然と持ち上がった
ただ、その後は好奇心が心をうずかせる
確か写真の名簿表が何処かにあったはずで、
探してみるかと興味本位で室内の何処にあったかと記憶を探る。
しかし思い出す前に体が動いていて直ぐに見付かった。
慣れとは本当に恐ろしいと思う
「まずは…」
三年前の顔写真を指でなぞりながら探す
一人ずつ徐々に見付かるそれが俺には楽しくて仕方がなかった
「若いな三年前は…」
高校三年間でこんなにも変わるのだろうか…
前に同じクラスだった奴らを見て、懐かしい感じもした。
自分一人気恥ずかしくもあった
俺にとって一年の頃の記憶なんてあんまり良いものじゃない
しかし友好関係については悪い事は殆ど無かったから、顔写真を見ると懐かしい感情が素直に出てきた。
静かな部屋に紙の捲る音だけが聞こえる
クラス名簿を捲っていると一つ驚く事があった小田切竜が同じクラスだったということ。
3Dにもやはり元同じクラスの奴は居てそれは知っていたが
まさか小田切竜が同じクラスとはまったく忘れていた。
何故気付かなかったのか…
小田切とは話したこともあったはず…
居る位置は違えども会話位はしたこともあったのに
小田切の名前を指でなぞりながら頭を回転させる…
それに小田切と言う文字が更に気になった。
同じクラス以外に何処で俺は聞いたのだろうか…
更に二年三年と名簿を開いた。
この名簿表には個人データは書かれていない
更に調べようと思ったがHR開始のチャイムが鳴り作業は中断された。
俺はこのまま自分のクラスに行っても良かったが、足は向かなかった。
来ている奴なんて殆ど居ないだろう。
A組は特進クラスだしな
学校の授業ではセンター試験だって受かる可能性は少ない
それにこの時期に習う授業は確かにたいしたこともないからな。
そう思いながらポケットに手を入れ廊下を歩く。普段なら絶対にしない歩き方
けれど今はHR真っ最中だから誰も歩いている人などいない
いるとすれば事務の人。だから肩の力がおりていた。
その事務の方にすれ違いで軽く会釈しながら更に歩く
目的地は3D。
3Dに行く廊下はいつもなら騒がしい声が木霊しているのに今日は異様に静かだった。
山口の努声以外は…
「座れ」
女性の声なのに凄くドスの聞いた声。
一瞬俺が怒られている感覚になり足が止まった。
それから音がなくなったから早足で向かう。
教室の廊下から見えた光景に俺は目を疑った。
隼人が教卓からあるいて自分の席に戻っている。
3Dには有り得ない位の静かさの中で
「お前らもだ全員席につけ」
山口が一言言うと全員が座る。
俺は一瞬山口の言う事を3Dが聞くようになったのかと驚いた。
しかしそれは違ったようで
「いいか。よく聞け反抗上等不良上等。けどな、お前らがやってるのは只のわがままだよ
不良気取ってやってることは幼稚園児と何も変わりゃしないじゃないかよ」
その場の雰囲気が物々しく全員が山口を睨んでいる
山口はそんなのを脅えもせず気にもせず全員を見ながら言葉を紡いでいる。
俺はただただこの場で聞いているしか出来なかった
「此処まで言われて、悔しくないのか・・・・どうなんだって聞いてんだよ!」
ひときわ大きな声。
山口の言った無駄に生きている…直接には3Dに言っているのだろうが
俺は自分自身に言われたようで胸を締め付けられる思いだった。
山口の言葉のあと、生徒達がでてくる。
隼人や土屋、日向を筆頭に出て行くのを俺は何も言わずにを見ていた。
ただ、武田がいない。
休みかと思って扉を見るとその武田が出てきて俺と目が合った
「」
「山口先生となにが?」
「あー・・・あいつが切れちゃってさ。」
「・・・そうか」
「そうだ・・明日暇?」
「え?あ・・・・うん」
急に服が引っ張られたと思ったら武田が俺の耳元で問掛けてきた。
いきなりだったから声が裏返ってしまった…
隣からクスクスと笑い声が聞こえて恥ずかしくて額を押さえた。
「何かあるのか?」
「ん?相談したい事あるんだよね」
「俺に」
「そ。に」
「分かった」
瞼を下ろして、自分を落ち着かせたあと了承すると
武田は頬を綻ばせると隼人たちを追いかけるように去っていった。
俺は追いかけはせず、ゆっくりと本校舎に向かった