言葉にしてはいけない想いだけが躯を蝕んでいく

目を瞑るとそこには想いしその人しか浮かばない

それでも傍に居たいと願うことしかできない・・・・

本当は駄目だと何度も自分に言いきかせた

叶うわけが無い

けれど想いは募るばかり















鏡花水月















随から帰省後少しの長旅の疲れからか深いふかい水底の様に妹子は眠った。

ただ、仕事は休みをくれない。軋む躯をフルに使い朝から晩まで様々な事柄に追われた。

ある日の夏の夜

仕事の疲れも感じないほど集中して書物を読んだ

それは朝廷訪問の際に、たまたま見つけた数枚の紙の束だった

紙が貴重な時代でもあるのに幾重にも重なったもの

誰が書き残したかもわからない、何故あるのかもわからない書物

妹子は許可を取りそれを持ち帰ると、残っている仕事もそのままに読みふけった





それは恋の話しだった

切なく続く物語

近くにいるのにかなわぬ恋の話

胸が苦しくなった

読み終えた妹子は涙を抑えつつそれを置く

溜息が漏れた

それから、じっとしていられなくて足は川端に向いていた

チラリチラリと闇の中を飛ぶ儚い小さな光。露草の間で短い命を精一杯の光で表していた。

道筋は飽きた。自分の上司の様な発言ではないがそう思い横道にそれる

様々な音が交差する中で草をかきわけ足の向くまま歩いた

星月夜に灯りなどはいらない

程なくしてたどり着いたのは小さな泉だった

月光と水面の色とのコントラスト。妹子は吸い寄せられる様に泉へと向かった。

しかし徐々に近づくに連れてその先へは進めなかった

まさかそこに居るとは思わかったから。

そう。書物を読んで一番に思い浮かんだ相手が…

「太子?」

泉の側の木で妹子の上司である正徳太子が寝息をたてていた。

妹子はなんの冗談だろうと驚きを隠さず近くに寄りながらそう考えた。

「太子…起きてください。貴方はなにを為さっているのですか?」

それは自分にも言えることだと正直思う。

何故此処にいるのかも自分自身よくは分からない。


緑陰でいっこうに起きる気配のない相手に妹子は溜息をついて隣に座った。

暫しの静寂。鈴虫が存在を教えているかのように夏の風物詩を奏でていた。

起きるまで待つという義務は無いが何故だろうか、この風景と月華に酔わされたように躯は動かなかった。

横を見ると普段はアホで真面目な顔を殆んど見せない表情の想い人。

長い睫、綺麗な唇。何もかも端正でまるで作られた人形のようにパーツが際立っている。

息が止まるかと思う位綺麗で目をそらせない。

切ない恋の物語を見て自分の想いを考え涙するくらい恋焦がれる相手

近くにいるのに届かない存在

まさに今の自分にぴったりなのではないかと思案が巡り、また目頭が熱くなった



「妹子?」



いつの間に覚醒したのか隣で寝ていたその人は起き上がって何度も瞬きをしている

「お、起きたんですか!」

潤んでいる目を見せなくはない

妹子は悟られぬように必死になった

「え?あぁうん最初から寝てない」

「は?」

開いた口が塞がらず相手の言葉に思考回路がプツリと切れた

「寝て…ない」

「うん」

真顔で太子は言った。

妹子は瞬間に全身の熱を顔に集めた。

起きているなんて思わない。太子の顔をずっと見ていた事が恥ずかしくてたまらない。

自分の持っているジャージと同じぐらい今の顔は赤いのではないかと妹子は顔を押さえた

「妹子」

「はい…っ!」

唇に触れる暖かく柔らかい感触。妹子の瞳に太子の顔が写った

「…っん」

お互いに目を瞑らない状態で太子は妹子を目の端で視線を合わせる。

そしてゆっくりと押さえている手を掴み取って徐々にその行為を深くした。

手を掴まれ受け身の妹子に拒否権はなかった。

ただ感じるままに口内を明け渡す

声にならない声と粘着性の強い音が太子の耳孔を擽る。

大きく光る月の姓だろか…

太子は自分の持っている欲望を行動で表した

「た、太子!」

「なーにー。」

「何じゃないですよ!!!貴方何してるんですか!?」

「妹子に触ってる」

「そんなの当人なんだからわかりますよ!!ふざけないでください!!」

「いも・・・痛ぃ!!!!」



痛いのは蹴られた太子の脛だろうか

それとも妹子の忠実な理性だろうか

あぁ・・またやってしまったと妹子は心で涙した

本当はうれしかった

本当はこのまま口付けに答えて相手の首に腕を回したかった

けれどそれはできない。

相手は天下の聖徳太子だから

これは報われぬ恋だから

「申し訳ございません・・」

「あ!妹子!!!!」

妹子は振り返らずに走った

太子は傷む脛を抑えつつ背中を見送ることしかできなかった

仕方なく、もと居た木に背中をつける

何故わたしを拒むのだろうか・・・

頭の中を駆け巡る想い

「こんなにも好きなのに・・・」

小さなため息と共に髪の毛をかき上げる

誰もいない静かな場所に小さな呟きだけが響いた










悲恋の恋は望んでいない

けれど恋し想いは募るばかり

実らぬ恋と知りながら傍にいたいと願うことしか出来ない

「妹子・・・」

「なんですか?」

「なんでこのスーパーハンサム聖徳さんの事を避けるんだ?」

「自分でスーパーハンサムとか言わないで下さい。それに別に避けているわけでは・・」

「あ!!!!もしかしてこの間の口づ・・・・んぐ?」

「言わないで下さい!!!!!!!!」

朝廷の廊下

幸か不幸か二人きり

「いいですか、貴方と私は身分が違います・・・気軽に話して言い訳がないんです」

妹子は自分で言った言葉なのにずっしりと心に重みを感じた

わかっているのに言葉にしたくなかった思い。

『身分違い』

「・・・・・・。ならばわたしが許せば良いのだな」

「え・・・・」

太子は朝廷の渡り廊下の端に両手をつき妹子を両腕に挟んで動けないようにした

妹子は瞬間ドキリと異常な速さで心臓が鼓動する

この距離で、太子と自分の唇が触れたときの事を思い出した

「妹子はわたしのもの。だからわたしと会うのも自由」

太子は壁についていた手を片方離して妹子の髪をクルクルと弄び楽しそうな表情で言った

それは顔を十センチも離れていない距離での言葉

急に胸が苦しくなった

「い、妹子!?」

妹子は感情のままに泣き出した

太子の言葉に嬉しくて仕方が無かった

「なかないでくだちゃいね〜!!ほーら妹子ちゃん大丈夫でちゅよー」

急に泣きだした妹子に太子は動揺した

「ありがとうございます・・・・」

壁についていた手を離して、うろうろとしている太子の耳に

ポツリと小さな声が聞こえて太子はピタリと止まった

「妹子?」

「本当に馬鹿ですね・・・貴方は・・でも僕は貴方が好きです」

涙で腫れた瞳とは対照に満面の笑顔がそこにはあった

かなわぬ恋と決め付けていた自分に少しだけ妹子は腹が立った。

「わたしも妹子が好きだぞ!!!!」

公衆の面前で大声を張り上げた太子

妹子は恥ずかしいと思いながらも嬉しくて、この人の傍に居たいと実感した













実らぬ想いと知りつつも願った恋

貴方の傍で

貴方と共に

この幸せがいつまでも続きますように






----あとがき----
長!!!!!
ごめんなさい;;こんなに長くするつもりはなかったのですが・・・
ご依頼は「ギャグマンが日和」の「太妹」っということで・・・
初めて書いたのですが、どうでしょうか?
太子男前計画及び妹子乙女計画発動中なのですが(笑)
ダメダメですね。
本当にごめんなさい;;

「□■ラッシュライフ■□」の弥生 和様に相互記念のお礼小説として捧げます!

これからも、ふつつかものですが宜しくお願いします!
                         H17.7.19    姫月砂凪。