「っ!!!!」
「え?」
望むのならば自分は貴方様の手足となりてすべてを捧げましょう
この覚悟、貴方様と出会ったその時から決めておりました。
pledge one's loyalty
黄昏に染められた街中で柔らかい声音が響き渡った
放課後の貴重な時間を学生服に身を包んだ五人が楽しげに歩いている
街はまだ人が賑わいをみせ、声が雑多に色々な所から聞こえる
街の灯りと人々の声が夜でも街の活気を表していた
その一人が声に気づいて振り返った
振り返った小田切竜は軽く視線をめぐらせる
しかし見る限り騒いでいるのは呼び込みのお姉さんやお兄さんくらい
自分を呼ぶ声は気のせいかと思い、また会話に混ざった
「りゅう・・・・・・まっ・・」
やはり何処からか自分を呼ぶ声が聞こえる
しかし振り返ったところで誰かも分からない
視線をめぐらせどもそんな人物は見当たらなかった
「竜」
「え?なに・・・」
「どーしたんだよ。」
「別に」
「あっそ」
何かと鋭い矢吹隼人が小田切の隣を歩いて眉を寄せている
小田切の行動が彼にとって不可解にしか見えないのだろう
その小田切は矢吹の問いに慌てることもなく単調に一言呟やいた
「待ってください!!!」
やはり叫ぶ声が聞こえる。
今度は隣に居た矢吹にも聞こえたのか目線で周囲を伺っている
小田切は何処か聞き覚えのある声に身体を反転させた
「竜さま!!!!!」
「?」
「は?」
「あぁ・・俺ん家で雇ってる人」
「なに!?なに!?」
小田切がそう言うと矢吹が走ってくる人を見て小さく口笛を鳴らし
先ほどもまで一歩前ではしゃぎながら歩いていた武田啓太が混ざってきた
走ってくる奴は見るからに男。黒で纏められた清楚な服装で足を動かしている
小田切はその様子に溜息を漏らしてじっと睨んだ
「良かった・・気づいて頂けて」
走ってきた相手が小田切の前まで来ると、息を切らせながら膝に手を付いた
小田切は肩のところで持っていた鞄を、思いっきり相手の頭に下ろした
「いたっ!!!何するんですか!!!!」
「なに?」
「え・・・あ!そうでした。今日はお迎えにあがりました」
「は?」
「だから・・・お迎えに・・・」
「頼んでねぇよ」
「いえ、わたくしは貴方様のお世話係として今日は是非ともお迎えに!!」
「・・・・・・」
「おい、竜。」
「あ?」
「何こいつ」
「あ。申し遅れました!わたくしと申します」
「「「「・・・・・・・」」」」
「まだ半人前ではございますが、小田切様の会社で経理をしております。
また、住み込みでお世話係として雇ってもらっています。どうぞお見知りおきを・・・あ!これ名刺です」
「はぁ・・・・ご丁寧に・・・」
「タケ、なに貰ってんだよ・・・」
「え?だって竜の専属家政夫だろ!すげぇじゃん」
「ちげぇよ」
「流石金持ち・・・」
「だよなぁ・・・」
「そこのコンビうるさい」
男、が出してきた名刺は本物みたいで、清楚で真っ白な紙に文字が書いてあるシンプルな物だった
あまり貰ったことのないものを武田と日向浩介は食い入るように見ている
もう一人扇子をパタパタと土屋光は横目で日向の隣から見ている。
お世話係。一般人から見れば凄い事だし縁遠いことで嬉しいものなのかもしれないが
小田切の表情を見る限りまったくそういう事は無いらしい
いつものクールな無表情では全く無く、ポケットに片手を入れて思いっきり睨んでいる
それには気づいたのか脅えたような顔でひたすら謝っていた
「すみません!!!!!」
その光景に矢吹・土屋・日向・武田は唖然としてみた
スーツの男が学ランの少年にひたすら謝っている
一見だとあまり良い光景ではない。
周りを見ると道行く人がチラチラと見たり、見てみぬ振りをしたり
噂好きそうなおばさんが徒党を組んでヒソヒソ話している
とても居づらい雰囲気だった
小田切は雰囲気を察して深く溜息を付く
しかしは「溜息つくと幸せ逃げますよ?」などと呟いている
何故こんなにも自分の前に居る相手は雰囲気を察しないのか頭を押さえたくなった
「で・・・なに」
「あ!今日はお迎えに・・・」
「いらないって言っただろ・・」
「ですが・・・」
「いいから帰れよ」
「あ・・・はい。」
小田切は極めて低い声で小さくに言った。
本人は余程怒られたのか悲しかったのか捨てられた犬の様な感じで肩を落としている
なんだか訳のわからない状態に残りの四人はただただ見ているしかなかった
特に武田と矢吹は小田切とは小学校から一緒でも、こんな奴は見た事がないと上から下まで凝視している
お世話係なんていつ付いたんだっと二人は思った
しかも何となく美形。
経理をしているっというだけあって年上だろう。しかし彼は年上になんか全く見えない。
寧ろ自分達よりは幼く見える
頭に色々な疑問符が浮かんでくる四人だった。
確かに年頃の男子に世話係というのは必要のないものかもしれない。
しかし、こんなに面白そうな人物なら毎日楽しそうじゃんっと少なからず全員思った
「すみません・・ご勝手な真似を・・」
「ったく・・・・・帰るぞ」
「え!?本当ですか!」
先程まで沈んでいた表情は何処へ行ったのかコロコロと変わる表情に矢吹達はふき出した
小田切にいたっては眉間に皺を寄せて更に溜息を付いている
目の前の男がいると何回溜息を付くか分かったものじゃない。
もしかしたら俺には幸せなんか残っていないのではないかと、なんとなしに考えた
「車は?」
「あ。こちらです・・お友達様は・・・」
「俺らはいーよ。じゃぁな竜!」
「悪い・・じゃぁな」
矢吹達はまだ笑いが収まらないのか、それともエンピツが転がっても楽しい時期だからなのか
ニヤニヤと笑いながら手を振っている
明日の事を思うと小田切は心底溜息が出る思いだった
気を取り直してを見ると、それはそれは幸せそうな顔をして微笑んでいる
喜色満面。
この言葉が当てはまるだろう
「行くぞ」
「はい!」
お持ちします。っといって鞄を持とうとする相手に小田切は軽く断る
そこまでやってもらうつもりはない。年頃の男ならば当たり前の反応だろう
いらないと言っているのに何故此処まで世話を焼きたいのかと一歩前で先導する相手の背に溜息を漏らした
実は小田切自身はあまりこんなもの必要ない
たとえそれが親が勝手に連れてきて勝手に自分に付けたもので彼の仕事であってもだ
自分の事は自分で出来るし、自分の身は自分で守る。やってもらうっという必要性は全く無いからだ
では何故必要ないと直接言わないか。
それは相手の性格が憎めない性格だからか・・
それとも突き放す事の出来ない自分の性格だからか・・
小田切は相手を思い返して苦笑を浮かべ意味なく髪をゆっくりと掻きあげた
「前に迎えなんていらないって言ったじゃん」
「そうなんですけど・・・」
「しかもダチが居るときに」
「お恥ずかしかったですか?」
「ああ」
「そうですか・・すみません」
「いいよ。もう・・」
結構怒っているつもりなのに不毛な言葉が返ってくる
へらへらと笑っている相手に頭を押さえた
「竜さま!あのですね」
「様はいらないと言った筈だけど」
「では坊ちゃまで宜しいですか?」
「やっぱ・・様でいい」
「そうですか?・・・あ!それでですね今日は自分が竜さまのお世話をさせて頂いて一年になるんですよ」
「は?」
「一年です。だから今日こそは是非ともお迎えにと」
相手が言い放った言葉に脱落した一年というのが余程嬉しいと見える
一年ですよ〜っと感慨に耽っている彼に何故にこんなにも頭が足りないのかと小田切は片眉を上げた
そんな事でわざわざ迎えに来るという理屈も分からない
しかも来るなという言葉を無視してだ。一応自分の世話係なのにと小田切は溜息を零した
「お前は俺の恋人かよ」
「何言ってるんですか!そんな恐れ多いことを・・わたくしは唯の世話係です」
「俺は動物か・・・」
「え!?何言ってるんですか?竜さまは人間でしょう」
「もういいよ・・・・」
「??」
「一年目なんて家に帰ってからでいいだろ」
「いいえ!是非とも一年目の最初はお迎えにと心に決めておりましたので」
「馬鹿か・・・」
「え?なにか?」
「何でもねぇよ」
本当に一年目が嬉しいのだろう相手の背中が踊っているようにも見える
しかし小田切自身そのこと自体忘れていた。なんとなしに少し申し訳ない気持ちもした
きっと彼にこんな事を言った所で、そんなこと気にもしないだろうが・・・
「さ!乗ってください」
「お前が運転すんの?」
「え?いけませんか・・」
「別に」
「大丈夫です!!竜さまを乗せるために何度も帰り道を練習しましたから。
それに何かありましたら僭越ながらわたくしがお守りいたします」
後部座席のドアを開けながら言葉を発する相手に小田切は一瞬驚いた表情をした
何を馬鹿なことを・・っと思ったが、よーく考えるとこれも明るい笑みで見ている相手の性格だと思い
小田切は直ぐに苦笑が自然と喉を鳴らした笑みに変わった
今日位は嬉しそうな彼に付き合うかっとそんな気持ちにもなった
「ほら・・帰るぞ」
「はい!!!」
暮れゆく夕日が車内に入り込み紅の色に染める
初めて乗る彼の車。
後部座席から見る相手の横顔は先程とは違い少しだけ大人の雰囲気を漂わせていた
初めて見る彼の運転。
今まで見たことの無いものを見てこんな日も悪くないかなと小田切は心で言葉を連ねた
守られる。お世話されるのもたまにはいいかと、そんな事も思った。
---あとがき-----
よくわからない設定で申し訳ないです・・
ご依頼は小田切夢で男主でした
この時点ではまだ小田切の家についてよく分からないので妄想で(笑)
一応世話係兼ボディガードな感じだと思われます!
こんな中途半端な駄文で失礼しました・・
「青空にある雲の色」の妃桜温夜様に相互記念のお礼小説として捧げます!
これからも、ふつつかものですが宜しくお願いします!
H17.2.26 姫月砂凪。