縁側に生温い風が吹く

夏の暑さにじんわりと汗が滲む

それなのにお互い離れないのは我慢大会かそれとも愛し合っているからか

この場合は後者になるのだが、やはり暑いものは暑い

けれど、心地よい夏の夜の風が二人を包み涼ませ離れさせまいとしているようだった

お互いに風呂上り、風が欲しくて水浅葱の団扇でゆっくりと扇ぐ

それは時間さえもゆっくりと流すようで、居心地が良かった














   恋情






















「なぁ。なんで伸ばしてるの?」

「何でって・・・・」

床に寝そべって温かい膝を枕にしていた団蔵は擽ったそうにみじろきをした

さらりさらりと団蔵の髪の毛がきり丸の手から零れ落ちる

月夜の光に透けて流れ落ちる神聖な滝にも見えた

「虎若みたいにさ。短くしないの?」

「してほしいの。きり丸」

「いや・・・そうじゃないけど」

「じゃぁ。いいじゃん伸ばしてても」

「悪くはねぇけど・・・」

言い淀んだきり丸に顔を向けると何やら眉が下がり気味になっている

あぁ。もしかして欲しいのかっと団蔵は一つ思案をすると手を伸ばした

さらりと長い黒の綺麗な糸

腰まではあるのか一見は女人にも思わせる

いつも高く結わえてあるはずなのに一つの跡もないそれは

月の光で照らされて一本一本に艶が生まれていた

くんっと引っ張って口元に寄せる、仄かな甘い香り

「団蔵・・・」

「どうしたの?赤くなってるよ」

「別に・・・」

「そう」

頬が朱色に染まっているきり丸

可愛いなぁっとまるで幼児に向ける様な暖かい気持ちをおもう

普段は冷静沈着に物事を観察していて、後輩から絶大な支持を受けている先輩

とても今の姿からは想像できないくらい落ち着いている彼が常

だけど二人のとき色々な表情を見せてくれる彼を団蔵は知っている

全てのきり丸を知っているようで小さな自分だけの優越感に思えた

それは、誰も知らない二人だけの時の顔

課題をこなす忍者の顔

床の上での縋る顔

そして今の照れている顔

全てが愛しいと感じた

「きり丸」

弄っていた一房の髪束を引っ張る

驚いてこちらを見た彼に密かに笑みを零して可愛い唇を喰らいついた

驚いている瞳が眼に映る

それまでも好きだと思えるのは惚れすぎているからだろうか?

惚れすぎている・・・・そんな事は解かっている

惚れた時点で彼しか考えていない。溺れている事など百も承知である

今更惚れた腫れたで言い表す小さな関係では無いが、やはりいつだって愛している

それに愛されているとわかる

だから素直に言える彼が「好き」だと









綺麗な髪を弄り柔らかい舌をじっくりと堪能する

月下の元

危険で妖艶な音がその場を支配した

息は途切れ途切れ、脱力感でいっぱいになっているきり丸の

白い寝巻きに手を伸ばす。しっとりとした肌触りが心地よい

ゆっくりとその肌に手を滑らせ動きをつける

途端に神経を撫でられたきり丸が敏感に反応を示した

団蔵から仕掛けた口付けは今やきり丸から縋りついて来ている

心の何処かが笑った気がした。

「・・・んんっ」

少し無理な体勢のままその状態が続く

蜩の情緒溢れる鳴き声が遠くで聞こえて邪魔にも感じた

今は二人だけの空間が良い

たとえ虫の子一匹だって邪魔はされたくない

粘着性のある音が交じり合って更に卑猥で異色な空間を作り出していた

「・・・んっ・・・きり丸」

「は・・ぁ・・」

団蔵は元の膝の上に頭を戻す

無理な体勢だった背中は悲鳴を上げ痛みを訴えた

息が上がるきり丸は眉を寄せながら顔を上げる

どうやら長すぎる接吻だったらしい

何度も空気を求めながら括っていない髪をかき上げて後ろへと流した

夏も終盤を迎えつつある熱帯夜、終身時間は等の昔に過ぎている

滲む汗を持つ白いうなじが団蔵を刺激した

「・・・綺麗、だよね」

「は?」

「綺麗だなって思って」

「何だよそれ・・」

「きり丸のさ・・・何もかもが俺のものになればいいのにな」

手を伸ばしてゆっくりと紅潮したままの白い頬を撫ぜる

不思議そうな瞳とかち合った

分からないっという顔をして綺麗な眉が上がっている

団蔵はくすりと笑みを浮かべた

束縛をしたい訳じゃない、ただ誰のものにも為って欲しくない

好きだからこそ遠くに思ってしまう、自分の元を離れるのではないかという恐怖

どうしようもない独り善がりな気持ちが今の団蔵を支配している

「好きだよ。きり丸の何もかも」

月の光が惑わせているのか団蔵はどこか饒舌だった

きり丸はきっと呆れている、それが解かっているのに

何かを繋ぎたくて、その綺麗な人を確かめたくて

高揚した気持ちのまま、掌を擦り付けた

「・・・・きり・・んっ」

触れた手を取られ強引な口付け

深く卑猥な口付けを交わしたばかりの唇は熱を持つ

さらりと綺麗な髪が団蔵の顔に掛かり灯りを遮った

それはきり丸からの口付け。ふわりと優しくて可愛らしいもの

心地よくてゆっくりと瞳を閉じた

優しいゆっくりとした時間が過ぎる

ちゅっと音を立てて離れた時、きり丸は意地の悪い顔でにやりと笑った

「・・・もの・・・だよ」

「え?」

「団蔵のもの。だからさ、団蔵のその髪も何もかも俺に頂戴?」

ねだる様な視線、まいったなぁっと思う

首を傾けるきり丸が可愛くて仕方が無い

誰も知らないきり丸の顔

好きで好きで溺れる位愛している彼

彼に自分自身を捧げ様と思った。そして全てを愛そうと決めた

団蔵は緩やかな弧を描き微笑む

静にゆっくりとお互いを知るために口付けをした

蜩は鳴き止まない

それは熱帯夜の恋情



「好きだよ。きり丸」
















































--あとがき--
今回短いですか?そうですか・・・
私の中で団蔵はカッコいい人なんですよね。
ちょっと文次入ってそうでどきどきしました。
微エロ位ですか?生温いですかね・・・はは。

拍手リクの団きりのラブラブでした!