元来きり丸は自分の事はあまり話さない。

ある意味「興味心」っと言う物が欠落しているのかもしれない。

前に事件があった時も最後まで何も話さなかった。

もう殆ど忘れかけていた頃に

「稚児ってなぁに?美味しい?」

っと純粋にシンベエに聞かれた時は苦笑いもしたが、やはり言わなかった覚えがある。

無頓着っと言う訳ではないが生きていくための手段でしていた事な訳で、話す必要性もないと自分自身で自己解決していた

実際はどうでも良い昔の事っと言われればその通りで、

結局の所きり丸にとってはどうでも良い事なのは確かだった。

自分自身の中で気になると言えば一応保護者である土井半助に心配を掛けた事。

今でこそ殆んど一人前に近くて土井が居なくても生きていける様にはなったが

あの頃は必死で縋らなくては生きていけない位子供だった。




















   慕情逢瀬














本当は弱いのに「強いね」って言われても自分自身どうでも良くて強いなんて思ったこともない。

その「強さ」を自覚したのはつい最近で、上目使いの後輩に強さの秘訣をきり丸は問われた時である。

正直答えるのが面倒で適当にあしらって置こうかともその時は考えたが

昔は自分も後輩達のような時代があったのだから蔑ろにも出来ないっと自分の「強さ」について考えることにした

でも自分自身の事を深く考えたこともなかったはずなのに、案外簡単に考えは纏まった。

ただ自分は乱太郎の様にお人好しでも後輩思いでもないから親切にその秘訣とやらを話す事はなかった。

いや、正確話せなかったが正しい。タダで情報を与えるのが嫌だっという理由もあるが

纏まった二つの答えはまだ忍者に憧れを持つ子供達が理解するには無理であって

言っても無理ではないかと、状況判断で口が開かなかった。

しかし、それはまだ幼い少年達では難しいであって、

この歳まで生きている人間にとっては簡単なこと

それは「経験と適応能力」の二つ

追い込まれて発揮する人間の先天性な何かを自らの手にすれば勝手に能力がついてお釣りまで来る。

きり丸の答えはこうだった。

しかし曖昧に答えたきり丸には、この答えを言ったら後輩は理解するかどうかっということは謎のままであった…


「何一人で笑ってるの?」


自分の考えに浸りながら本を片付けて居ると

トサっと音がして、ついでに人の気配も感じた

「団蔵」

現れたのは団蔵で、どことなく本人の顔に疲れが見え隠れしていた。

大方委員会で算盤と睨めっこをしたか何かしていたのであろうと簡単に想像は付く。

進級し六年になって団蔵は会計委員会の委員長となった

頼りになり乱太郎とはまた違う優しさがあって落ち着かせる何かがある

そんな事を一年生が話していたのを思い出す。

きり丸は雑談をしていた一年生の話を頭で復唱した

「一人?」

机に肘を置く団蔵は一度振り返っただけのきり丸の背中を見ながら問うた

静寂の中でその声は良く映える。

「一人。まだ活動時間じゃないしなー」

きり丸も、数ある委員会の一つ図書委員の委員長で前図書委員長から直々に頼まれた。

最初は渋りを見せたきり丸だったが後輩達に異論は一切無く、むしろ期待の瞳が目の前にはあった

それを見ながら自分も育ったなぁ…などと悠長な事を考えながら委員長を受けた

なんだかんだ言いながら一年から六年の今まで図書委員な訳で難しい事など一切無い

どちらかと言うと本に馴染んでいる自分が居て大切にするという意識の方が強かった

やる、やらない以前に自分の場所のように図書室は己のモノ化している事を改めて感じた

「あぁ・・そっか」

きり丸はその時、五年前に卒業していった中在家先輩もこんな感じだったのかなっとふと思った。

そう考えると厳しかった先輩は何故だかよく分かって面白く感じて親近感が持てた

「…他の事考えないでよ」

フワリと後ろから抱き締められて少なからずきり丸は驚いた

そして思い出し笑いが自然と口許に出ていた事に気付く

「なに、やききもち?」

抱き締められながらも手は動かして棚に書物を入れる

団蔵は腕の中で動いている相手の肩に顔を埋めた

「団蔵。此処図書室だぜ?後輩来るから」

「いいよ。見せ付ければ」

「だんぞー…」

団蔵はこんな奴だったかと小さな疑問が生じた。

こういう場所でこんな事をしないと思っていた

仮に自分から仕掛けたならば慌てると思っていたから

人の違う一面を見て何だか面白いなぁっときり丸は手を止めた

「とりあえず片付けたいんだけどさ」

さらりと後ろで高く括ってある髪の毛がさらりと揺れる。

肩に顔を埋める団蔵を見ながらきり丸は笑った

「こっちが先」

いや、後だろっと心の中の突っ込みは静かに消えた。

ついばむ様な口付けが、肩首っと順々に上がって口許まで来る

忍者がこんなに簡単に後ろとられたらまずいよなぁっと

別の事を考えながら団蔵を受け入れようとしたその時、ガラリっと図書室のドアを開いた

カタンっと音がして足音が侵入したのが耳に届く

きり丸はヤバいっと感じて団蔵を引き離そうとしたが力の差ははっきりしていて押し返せない。

「だんぞ…やめっ」

「見付からないよ」

艶のある甘い声が耳孔を擽る。

それだけで心臓をえぐり取られそうな感覚

それは心地よくて主導権など最初から無かったと諦めが簡単に着いてしまった

見付からなければ良いと思うのに見付かったら見付かったで楽しいかもしれないっと思う

きり丸は今の自分の事態を客観的に見ながら、そのギリギリさを楽しむ余裕があった

「せーんぱーい??」

入って来たのは今日の当番の後輩だと声が教えた。

何者かが分かると、きり丸はこのまま情事を続けるのは良くないっと判断した

しかし動かないものは動かない

力の差で勝てないならと、団蔵の唇を霞め取る様に口付けして一瞬の隙を見て離れた






「…急がなくても良かったんだけど」

言いながらカウンターの方へ戻ると、息を切らしながらあからさまに顔を輝かしている少年が居て笑いそうになった

ポンっと手を置いて撫でると更に表情が変って、楽しいなぁなどと邪に考えた


「きり丸」


後ろから聞きなれた声が聞こえて振り返ると

一冊の本を片手に無表情の団蔵が居た

「借りていい?」

投げられた一冊の書物を受け取ると相手の真意などお構いなしに

貸し出し台帳に団蔵の名前を書いた

「それとさ…」

きり丸の一連の動作を見ていた後輩をちらりと見て

団蔵は予想外の行動に出た

「…んっ」

触れ合った唇は暖かくて気持が良い

触れるだけの口付けはすぐに終り俺のものだと主張された様な気がした

「…あとこれも借りるから」

きり丸の黒髪の人房に口付けながら微笑む彼を見ながら小さな後輩を見る。

大抵はこの笑みに引っ掛かる。

あーあ犠牲者っと思ったが少年は違う反応だった

「まだ、委員会は終ってないので…だめです」

顔を真っ赤にしながら声を荒下ている少年

団蔵はこの子きり丸に惚れてるっと理解した

火花散る空間の中できり丸は何だか面白いことになりそうだとニッと笑った



「団蔵。からかうなよ」

「・・・・いいじゃん」

「・・ったく。今日は俺がやるから」

「え?」

「じゃーな」

にぃっと持ち上げた頬は笑顔

まだ幼さの残る少年はその笑顔を向けられたらば一溜まりもない

先程よりも顔を赤くし会釈して出て行った


「で?」

「でってなんのこと?」

「ふざけんな。本借りるだけならさっさと出て行けよ」

「きり丸。貸すとか借りるとかの単語で表情変わらなくなったね」

「一年の頃と一緒にすんなよなー・・ってか話逸らすなよ」

「あれは、あれで楽しかったのにね」

「金を稼ぐのに必死だったからな」

雲と雲間には小さな光が障子から透ける

明け方から霧雨が降ったり止んだりを繰り返し地面を濡らしている

湿気混じりの隙間風が湿った土の匂いと濡れた草や葉から香る植物独特の香りを運んでいた

「巻子は大丈夫そうか・・・・冊子は委員全員で天日干しだな」

舌打ちをしながら箱や塗り箱を開けて一つ一つ確認をするきり丸

その後姿を見ながら笑みがこぼれた

「団蔵?」

高く括ってある張りの有る艶やかな髪がひと房、

団蔵の顔に触れるほど近くで揺れ動いた。

顔を上げるときり丸は憂えるような眼差しで覗き込んでいた

気配に気付かなかったっというより、気付けなかった

まだまだだなぁー・・などど暢気に考えながら六年生になって麗艶になった目の前の相手を見た


「なーんできり丸に惚れちゃったんだろ」

「失礼だなー。だったら兵太夫にでも惚れれば良かっただろ?」

「女王様気質だからな」

「団ちゃんには無理ですか?」

「無理ですね。俺の女王様はきり丸一人で十分です」

「よくそんな恥ずかしい台詞言えんのな」

「庄左エ門は良く言ってるよ?」

「庄左エ門は良いよ。歩く書物だから」

「意味わかんないよ」

「知識の産物ってね」

「なに?それは本を愛するきり丸は庄ちゃんの方がいいって事?」

「さーね」

「きり丸?」

「・・・・クク。嘘だって」

バサリと手に持っていた冊子の束が落ちる

小さく独特の紙粉が舞ったのが二人の目の端に移る

それは始まりの合図の様に二人の視線が絡んだ

「今日は仕事になんねーや」

「後輩にやらせたら?」

「団ちゃん。追い出したのはお前だよ」

「分かってるよ。責任は取る」

「まーったく。俺は高いよ?」

「今更」

二人の小さな笑い声

まだ冷たさの残る風が二人を包む

遠くで聞こえる鼓翼に耳傾けつつ二人の逢瀬は始まった












































--あとがき--
「月華」好評に付き団きりを書いてみました
お稚児って部分は連載の「お稚児さん」っと繋がっては居ますが別ものです
むしろ最初の文章この話に関係ない気がします;;;
そして後輩・・あれ誰!?何年生!?っと自分自身に突っ込みを入れながら書きました
結局微妙にしか出てきていない彼に深くお詫びしつつ・・・

って事で図書室の逢瀬でございます
五年から一個あがりまして、六年生設定でどちらも委員長になっちゃいました!




嗚呼・・所詮マイナー・・




此処まで呼んでいただいてありがとう御座いました
ご感想いただけたら嬉しいです。