灯明がほのぼのと明らめいている部屋の外の暗い庭を黄色に浮き上がる蛍が飛んでいる。
川ばたほど数は多くはない、黄色の光は縁先近くまで飛んできて静かに魅了する
暦では初夏を過ぎ五月(旧暦)やがて来る梅雨の前部レを思わせる厚い暑い日が続いた。
月下蛍
中在家長次は図書委員長であるために書物の返却を先生に依頼された
頼まれたら嫌とはいい難い。図書室の鍵はとっくの昔に事務の小松田によって閉められている
しかも小松田は事務の仕事で今日も忙しなく動きまわって捕まえることは皆無かもしれない
だとすれば開けられるのは自分しかいないことになる。
急を要する図書でもないらしいが、頼まれたらば今日中に元の場所に返した方がいいと、そう判断した
廊下をひたひたと足音を立てながら歩いた。
別に今は忍者の修行中でもない。ここは敵の城でもない忍術学園だ
何かあったらば直ぐに対処できる。
しかもこの時間はまだ就寝時間でもない。先ほどから楽しそうに湯殿から上がってきてはしゃいでいる生徒や、
まだ教科担当の仕事中であろう先生方などにすれ違った
自分も一単羽織りだけで歩いている。蒸し暑い空気が肌に残るが夜は肌寒くも感じる
ちらちらと見える蛍を横目に無言で教室や宿舎を通り過ぎていった
月の光だけで道筋が出来る、その光で暫く歩いていくと図書室の前にたどり着いた
図書室の鍵を開けようとして気付く
開いていることに……………
おかしいと思い、眉を寄せた。
灯りもなく作業をしているとは考えにくい。
長次は音を消し気配を消し図書室の中に入った。ぱっと見は誰も居ない
だが人の気配がした。その気配を辿って少しずつ近づいた
警戒心に自分の額から一滴の汗が落ちる。
気配がある場所まで行って目を疑ってしまう
きり丸が図書室の縁側ですやすやと静かに眠っていたからだ。
ぎゅっと握った手には墨のあと。彼の回りには沢山の書物があり硯や使っていない水滴(水いれ)があった。
おおかたバイトであろうと中在家は無表情と緊張感を崩した。
蛍が一匹彼の頬に止まる。
それをとってやろうと無言のままきり丸の柔らかな頬に触れた
「ん…」
起きてしまったのだろうかと一瞬手を離した、だが夢現で細かく開けた瞳は力がなく直ぐにまた閉じて寝てしまった
直ぐして、はっとなり持ってきた一つの書物を持って立ち去ろうとした。
しかし、それは出来なかった。きり丸が自分の袖を掴んでいたから。
仕方なくきり丸の傍らにまた座った
暫くそのままで居るが、どうにもこうにも立ち去ることが出来ない。
それはきっと彼の寝顔にそそられるから。
長次はきり丸の傍に横臥がして寝顔を見れるよう肘をつく。
まさか自分がここまで積極的に近くまで来るとは思わなかった
いつもはこの仔猫が自分の周りを付いてきたから。
中在家にとって彼は猫と同じように安心する存在だった。
自分のように話さないわけではない。むしろ彼は一言多く話してしまう
まったくの正反対の存在。それが心地良かった。
何もかも純粋に話してくれるきり丸に耳を傾け聞く事がとても楽しい空間。
シンベヱの代わりに図書委員に任命された彼を初めてみたとき軽く衝撃を受けた。
大きな猫目で見られてどきりした。
それ以来彼も自分を好いてくれているのだろうか、よく笑いかけて話してくれる様になった
嬉しいという気持ちが強い反面、中在家は言葉少ない分不安にはなった。
同じ学年の友人たちのように上手く気持ちを表すことが出来ない。
それはこの自分の隣で無防備にも寝ている彼にとって、とても退屈な時間なのではないだろうかと…
「ん〜……」
どうやらきり丸は起きたらしい。薄く瞳を開いて虚ろな瞳で見上げる
「起きたか」
長次は自然に言葉が出てきた。きり丸はその言葉と共に状況を判断したのか
とび上がるように起き目を見開いて周りをキョロキョロとしている
長次はゆっくりと起き上がり胡坐をかいた
少ししてからこちらに気付いたのか大きな猫目を更に大きくしながらこちらを凝視している
「な‥……中在家……先輩……」
「…………」
長次は何も言わず無言できり丸を見つめた。
きり丸は冷や汗をかきながら一言ポツリと謝った
「怒ってはいない………」
「でも!」
「………どうやって…入ったんだ?」
「あ、小松田さんに鍵を借りて……」
「バイトか?」
コクリと一つ頷いた。まだ眠気は取れていないのか頷いたまま目元を擦っている
長次は軽く息を吐いてきり丸の傍に近寄った
「先輩?」
長次は何も言わずにきり丸の両目を片手で隠すとそこに額を置き目を閉じた
お互いに息の掛かるくらいの距離
静まり返った図書室で暫くその状態が続いた
一体なんなんだ?ときり丸は思ったが少しすると眠気が襲ってくる
気付かぬうちにきり丸はまた夢の世界に入ってしまった
小さな寝息が聞こえ始めると手を解く
安定をなくした小さな体は前のめりになって長次の方へ倒れる
苦も無くその小さな身体を抱くと自分の胡坐の上で支えるようにした
よく猫も膝の上で寝せる。そのふさふさの毛を撫でながら寝せるのが好きだからだ
長次は寝ている時に緩んでしまったであろう髪結い紐を解き、
黒い柔らかい髪の毛を梳きながら薄く笑った
このまま一生手放したくないと、そう思った
一匹の迷い蛍が檸檬色の淡い光を放ちながら水滴に波紋と共に羽を下ろした
可愛いとは恐ろしいものだと思う。もし子猫が鳴いたならばその罪は死よりも重い
自分の抱いているこの子猫が泣いたならば全て壊して守り抜く。
その後懐かれなくても、相思相愛にならなくとも。
自己満足だと威嚇されても。
自分の力を全力で出して子猫の安らかな眠りの場所を崩さないように。
なかした罪は死よりも重い。
それは月白と蛍火が混ざり合う夜の、出来事。
------あとがき------
蛍の光っている時は交尾の時期らしいっすよ・・・・;;
初めての長きり・・・
長次×きり丸って見たことないんですけど(苦笑)
一言:長次さんの小説は文章ばっかりだー!!!(泣)
駄文ですみませんでした・・・